皆さん、こんにちは。病棟看護師の吉田です。
かすれた小さな声で絞り出すように「こんにちは」と言った声を想像してみてください。
90才代の女性hidekoさんは、頻尿が続くようになり、息子さんが介護困難となって入院していました。
hidekoさんは車椅子生活でした。hidekoさんの前をスタッフが通るといつも「おしっこ~おしっこ~」と両手を差し出していました。治療とケアを続け、パズルゲームに集中できるようになっていきました。体調の回復と生活リズムが整った頃に特別養護老人ホームへ退院しました。
数ヶ月後、hidekoさんが食事摂取低下で再入院したのです。自分で寝返りができなくなり、声も出ず頷くだけで、もちろん食事もなかなかすすみません。変わらないのは訪室すると、ベッドから両手を差し出すことです。私が両手を握るとずっと握り返して離してくれません。私はしばらく手を握って天気のことやご飯のことや困りごとはないかなどを話し続けるのです。
hidekoさんに、スタッフたちも同じことをしてくれていたでしょう。口当たりの良い捕食を根気よくすすめ、しだいに摂取量が増していきました。車椅子にも積極的に座ってもらいましたが、自分から車椅子を動かそうとはしませんでした。
ある忙しい日、私がナースステーションでスタッフと情報交換に集中していると、かすれた小さな「こんにちは」の声が聞こえたのです。振り向くとhidekoさんが車椅子を自分で動かして来てくれたのです。
私はもう嬉しくて嬉しくて「こんにちは、hidekoさん」と両手をつないでいました。hidekoさんの顔もしわしわのくしゃくしゃの笑顔になりました。
すぐに私がスタッフのところへ跳んでいき、hidekoさんの様子を伝えると、みんなも満面の笑みで喜んでくれました。
hidekoさんの「こんにちは」は幸せの魔法ですね。
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こんにちは
スタッフの今夢中