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妊娠9か月の時、突然、母が他界し、家族の世話がきっかけで介護の道へ

病棟介護リーダー
介護福祉士 石川美有紀

 私はもともと吉川町の出身。結婚するまでは介護とはまったく関係のない仕事に就いていました。妊娠9か月のとき母親が突然他界。残された祖父、父親、弟のために実家に家事の手伝いに行きました。それがきっかけで介護の仕事を考えました。人と接することが好きということもありました。子どもが生後9か月になったときに祖母が入院していたこの吉川病院に「入浴介助」のパートタイマーとして働き始めました。病院に保育所があったので子どもを預けながら働きました。2年半後に正職員として病棟での勤務となり、介護福祉士の資格も取得しました。入浴介助の時から、寝たきりの患者さんに関わることが多かったのですが、病棟勤務になってからは、認知症患者さんを介護する機会が増えました。そこでわかったのは「認知症は“すべてがわからなくなるのではない”ということ」でした。そこで『もっと認知症のことを知りたい』と思い2018年に「認知症ケア専門士」の資格を取得しました。その後に「兵庫県4DAS」という認知症患者の特性に対して適切なケアの実践を行う評価ツールの研修会に参加して2年続けて事例の発表をしました。自分の介護を文章にまとめて発表するという経験はたいへん貴重なもので私に大きな自信を与えてくれました。さらにケアチームのリーダーとしての視点を身に付けるために今年2023年には「認知症ケア上級専門士」を受験し合格することができました。

患者さん、スタッフからも「あなたがいてくれてよかった」と言われる仕事を心掛けたい

 心に残る患者さんの一人目は80歳代の女性で、コミュニケーションの取りつらい方でした。他施設へ転院することになりましたが、なかなか転院の同意が得られませんでした。私は、どうしたら、心を開いて貰えるのか考え、真正面から関わっていこうとたくさん対話を重ねました。すると、最初は断固拒否の姿勢だったのに、だんだん心を開いて頂き、信頼関係が築かれていくのを感じました。その方が転院を拒否していたのは環境が変わることへの不安からでした。それを取り除くことでその方は「あなたがそう言うなら」と転院を決意された理由の一つになれたことに嬉しさを感じました。
 もう一人は、ADLはしっかりしているけれど、認知症のある患者さん。入浴を嫌がってなかなか入ってもらえませんでした。私はふと過去に読んだ事例を思い出しました。それを参考に入浴券を作って「おめでとうございます!入浴券が当たりましたよ!」と言って周りのスタッフと拍手とともに手渡したのです。お風呂場のスタッフもその方が来ると「おめでとうございます!」といって拍手で迎えました。すると「こんなことは初めて」と喜ばれてスムーズに入って頂けるようになりました。信頼関係を築くには「どうしたら相手が喜ぶだろう、何を求めているのだろう」を徹底的に考えることだと思いました。患者さんやスタッフから「あなたがいて良かった」と言われる仕事ができるよういつも心掛けています。

患者さんにとって「生活の場」である病院を「楽しい場所」として共有できるかを大切にしたい

 医療者側の視点だと病院は「治療の場」ですが、長期的に入院されている患者さんにとって病院は「生活の場」です。だから私たちはいかにその人にとっての生活の場が「楽しい場所」として共有できるかを大切にしています。先日、嬉しいことがありました。ポータブルトイレを利用していた患者さんの様子を観察していたスタッフが「もしかしたら普通のトイレも利用できるのは?」と発言して、そこからスタッフのサポートによってトイレに行けるようになったのです。スタッフからそんな声が上がってくることが嬉しいです。今後は看取りケアも含めた終末期ケアについて、チームの形成とともに自分もみんなといっしょに成長していきたいと思います。