皆さん、こんにちは。病棟看護師の吉田です。
燕がやってくる季節になりました。季節が移りゆくたびに遠い故郷へ戻ってくるのですね。
老人保健施設で暮らされていた90才代の女性chizuruさんは、認知症が進行してベッドで寝ている生活となり、食事もほしがらなくなっていました。
入院当初は食事介助をしても「いらん、いらん」と口を尖らせて言い、真一文字に口を閉じていました。声をかけても「しらん」「いらん」の返事ばかりでした。
chizuruさんは、循環動態が悪くむくみが見られ、点滴をしながらの利尿剤治療がしばらく続きました。
ある日、私がいつものようにchizuruさんに「ちづるさん、若いとき元気なときは何をしていたの」と尋ねるとchizuruさんは「洋裁」と話してくれました。この日から「しらん」の言葉が減りました。丁度お向かいのベッドの100才のおばあちゃまも洋裁をしていたので、一緒に思いで話をするようになりました。
chizuruさんの小食は相変わらずでしたが、しだいに食事量も増えていました。お腹いっぱいになると「もういらんわ、ありがとう」と言うのです。
私は、chizuruさんの息子さんが面会に来られたときに「ちづるさんが2人のお孫さん、お嬢ちゃんのワンピースを作ってくれましたね。今もありますか?」と声をかけました。
息子さんはびっくりした様子で「母が話したんですか、そんな話ができるんですね。子供は大きくなっていてワンピースはもうないです。ありがとうございます」と。
私は息子さんに、chizuruさんとの会話をたくさん伝えました。
“いらんしらん”のアヒル口のchizuruさんが会話の中で“ほうぅそうぅ”のアヒル口に変わっていく姿がとても可愛らしかったのを覚えています。
“ありがとう”もたくさん言ってくれましたね。chizuruさん、出逢えてよかった。私からもありがとう。
公開日
アヒル口とワンピース
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