公開日 更新日

時代小説

 こんにちは、病棟看護師の吉田です。
 今回は、時代小説を読まれていたお二人の患者さんとの出逢いです。
 Nさんは、男性高齢者、独身で登山家の方です。ご両親はすでに他界され、この世では天涯孤独でした。末期癌で寝たきり、臀部に褥瘡がある状態で転院して来られました。本や雑誌を何冊か持っていました。病状とはうらはらに、会話や表情がとても穏やかで、時には自信に満ちている姿が印象的でした。
 ある日、私はNさんに「結婚はしなかったんですか?」と尋ねました。Nさんは、笑って「山に登っていたら忙しくてね。この歳になっていたよ。」と答えてくれました。今から思うと単刀直入で、不躾な問いだったと反省します。病室に置いてある本が視界に入って、私は自分が時代小説が好きな事、特に浅田次郎の本を好んで読むこと等を話しました。Nさんは、「んー、浅田もいいけれど、一生のうちで司馬遼・・の本を読みなさい。」と教えてくれました。ある朝出勤すると、前日まで話していたのに病室が空になっていました。
〝お別れも言っていないのに″と私は虚無になりました。
今では、司馬遼太郎の本を読むたびにNさんに〝ありがとう″のお礼をつぶやいています。

続く

 hisakoさんは、90才代女性です。悪性リンパ腫を患い、ステロイドの内服を続けながら長期療養をしていました。
 hisakoさんも又、時代小説を床頭台に多く積み重ねている患者さんでした。私が本について話しかけると、「若い時はたくさん読んでたよ。もう字が読めなくなってね。今ではテレビを見るくらいしかできない。あなたも読める間に読みなさい。」と教えてくれました。
 hisakoさんは、寝たきりでしたが、両手は動くので大好きな食事は何とか自分で摂取していました。私が出逢ってから2年半余り、病状というよりも年を重ねる事が身体の衰えとして目立ってきていたように思います。それでも、食事をとる体勢、肘の位置、食器の位置、軽い皿、軽いスプーン等様々な工夫をして、食事介助は増えてはいましたが、最後まで自力で食事摂取をしていました。
 hisakoさんは時折、故郷広島を思い出すと、戦後女学院へ通った事、琴を習っていた事、自分が育った家族の事、妹は歌が上手で歌手のお誘いがあった事、結婚して二人の息子を育てた事、息子たちは教員になった事など、息つく暇もなく、ニコニコ語り続け「あの頃は忙しかったわ」と眠りにつくのです。
私も最近、視力低下が否めない(笑笑 老眼です)のですが、「読める間に読みなさい」の言葉を大切に本を手に取っています。


スタッフの今夢中
  • 医事課の中沢さん
    ネイル
    休みの日だけジェルネイルやってます

  • 業務科の輔信君
    動画編集  
    息子さんのお誕生日等動画がいっぱい